
そういえば今日はホワイトデーだ。バレンタインデーの日にも彼は偶然こちらを訪れていて、わたしがもしかしたら会えるかもしれないと彼用にとっておいたチョコレートを、覚えていたのかもしれない。
わたしの言葉に、エドワードくんは俯いて口の中でなにがしかをもごもごと呟いている。その言葉は判然とせず、言われた意味を理解することができなかったが、彼がきまずそうにわたしの顔を見ないので、わたしがまずいことをしてしまったことだけは分かった。バレンタインのことなんかすっかり忘れていて、わたしから指摘されたことで申し訳なくおもっているのかもしれない。だとしたら非常に申し訳ない。
「ごめんね。いや、いいんだよ別にお返しなんて。元々わたしが勝手に渡したものだし。ね?」
腰を折ってエドワードくんの顔を覗き込む。頬が少し赤い気がした。咄嗟に身をひくと、彼に腕を掴まれる。まっすぐと見据える瞳に、いつもの彼とは違う熱っぽいものを感じて、居心地の悪さに胸がざわついた。無意識にその手から逃れようと身を捩る。その瞬間、がしゃんがしゃんと金属の擦れる音が近づいてくるのに気が付いた。助かった。理由は自分でも分からなかったが、そう思った。
「アルフォンスくん!」
なんとかやんわりとエドワードくんの手を自分の腕からほどいて、走ってくるアルフォンスくんに手を振った。彼は、わたしの名前を呼びながら、嬉しそうに駆け寄ってきてくれる。彼の表情は目には見えないが、彼はいつだって感情を素直に表現してくれる。
「
さん、こんにちは。お久しぶりです」
礼儀正しく腰を曲げるアルフォンスくんに、わたしも緩んだ頬を抱えてお辞儀をする。エドワードくんはあからさまに不機嫌そうにそっぽを向いた。
「何かあったんですか?」
「ん?なんだろう」
首をかしげてエドワードくんに視線を落とすと、彼はきっと目を吊り上げたが、すぐに力なくうなだれた。アルフォンスくんが気遣うように声をかけても、「なんでもねーよ」と言うばかりだ。不貞腐れたその感じがあまりに子供らしく、頭をそっと撫でてあげると、さらに真っ赤な顔をした彼に怒鳴られた。アルフォンスくんがそれを見ながら笑う。
「兄さん、あんまり意地悪してると
さんに嫌われちゃうよ」
「はあ?!俺は別に!」
「別にこれくらいで嫌いにならないよー」
「だって。良かったね、兄さん」
「うるせえ!」
じゃれ合う二人に笑みがこぼれた。「仲良くてうらやましいなあ」と誰に言うでもなく呟くと、エドワードくんは脱力して、「もういい」と、わたしに背を向けて歩き出した。アルフォンスくんが慌てて彼を追いかけていく。
わたしもついていくべきか思案していると、アルフォンスくんが振り向いて手招きをした。エドワードくんは肩を落とし、だるそうにのろのろ歩いている。
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二人についていく
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やはり今日は帰ろう