
遠ざかる二人の背中に、小さく頭を下げてから踵を返した。今度二人がこっちに来たときには、お詫びに遊びに連れて行ってあげよう。それか家庭の味に飢えているかもしれないから、夕飯をふるまってみてもいいかもしれない。
再び家路を急いで歩き出す。いつの間にか太陽はわたしの真上にあった。色々と時間を食っている間にお昼時になっていたらしい。街路に立ち並ぶ屋台から、様々なおいしそうなにおいが漂ってくる。食欲をそそられてなり出しそうになるおなかを押さえた。
「お前、まだこんなとこにいたのか」
背後から声をかけられる。振り向くとハボックが立っていて、彼の右手にはおいしそうなにおいのする何か食べ物が入っているらしい袋が握られていた。小さくおなかが鳴ったのが分かった。
「色々あったんですー」
「中佐に捕まってたんだろ」
「それもあるけど、さっきね、エドワードくんたちに会って」
「へー、大将来てんのね」
ハボックはいつものようにタバコをふかしながら、何事か含んだような笑みを浮かべた。探るように彼を見れば、「何でもねーよ」とごまかすように灰色の煙を吹きかけて来る。ますます怪しいと、もう一歩彼に近づいた。するとすっかり油断していたせいで、ぐうと今度は盛大な音を出しておなかが鳴る。恥ずかしさに顔に体中の血液が集まってくるような感じがした。
「お前なぁ…」
「聞かなかったことにして」
「無理だな」
にやりと唇の端を引き上げて、高い位置から見下ろしてくる。むかつく!
「飯食ってねえの?」
「食べてたら鳴るわけないじゃん!」
「逆ギレかよ」
くくっと、ハボックが喉を鳴らした。愉快そうに震える喉仏が恨めしい。食い入るように見つめると、彼がふと思いついたように持っていた袋をわたしの鼻先に突き出した。チーズのにおいがわたしの鼻腔をダイレクトに攻撃してくる。
「食う?ホワイトデーのお返しに奢ってやるよ」
「えー、もっとちゃんとしたのがいい」
「いらねーんなら、俺一人で食うわ」
「う…食べる!食べます!食べさせていただきます」
「ったく。じゃあ、あっちで食おうぜ」
ハボックはため息をひとつ漏らし、さっさと歩き出した。けれども、いつの間にか増えていたランチを求める人の群れに気づくと、振り返ってわたしを待っていてくれる。隣まで追いついて見上げた先には、いつものけだるい顔と煙があった。
END.04 | ランチタイムを君と(ハボック)
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