大佐。その言葉が口をついて出たあとに、なんだかまずいことを言ったのが分かった。正面のエドワードくんはあからさまに嫌そうな顔をしている。
 エドワードくんは大佐のことを嫌いだ嫌いだとよく言ってはいるけれど、"大佐"という言葉を出されることですら気に食わないほどだとは思わなかった。さっき彼は"無能"と呼んでいたから、そう言えば良かったのかもしれないと思ったが、そういう問題でもないような気がする。一体あの人は、こんなに嫌われるほど、エドワードくんに何をしたのだろうか。

 しかし、眉を顰めるエドワードくんの視線の先は、わたしではなく、わたしの肩越しであることに気が付いた。その瞬間、大体誰が背後に立っているか見当がついて、振り返りたくない気持ちでいっぱいになった。
 大佐と思しき人物(確実に大佐だと思う)がわたしの腰に手を回し、「や、鋼の。久しいな」と言う。エドワードくんはもはや怒りを隠そうともせず、ほとんど力任せにわたしの腰に回っている大佐の手を引っぺがし、わたしを自分の方へ引き寄せた。

「何か用かよ、変態佐」
「鋼のはいつからそんな口を利くようになったのだろうな」
「生まれてこの方、あんたに従順に振る舞った覚えなんかねーぞ」
「…昔はあんなにかわいかったというのに」
「ねつ造してんじゃねえよ!」
「まぁ、身長だけは変わりないようだが」

 大佐はハハハと軽やかに笑いながら、再びわたしを自分の方へ引き寄せる。それに、エドワードくんも負けじとわたしの手を引っ張って自分の方へ引き戻すと、鋭い視線を大佐に投げかけている。当のわたしはというと、さっきからぐいぐいと力任せに右往左往させられて、だんだんと気持ち悪くなってきていた。誰か助けてください!

が嫌がってるじゃないか」
「はあ?!そりゃ、こっちの台詞だってんだよ」
「いや、どっちもどっちなんですけど…」
「大丈夫か。さあ、こっちにおいで」
「誰が渡すか、変態佐!」
「ちょ、ほんと吐きそうになるから…!」

 ぐらぐらと視界が揺らされ、気持ち悪さはピークに来ている。それでも二人は言い合いをやめない。往来で言い合うこと自体顰蹙ものだが、往来で吐くなんてことになったらもはやお嫁に行けない。どうでもいいから解放してくれ!という気持ちしかなかった。

さーん!」

 がしゃんがしゃんと金属の擦れる音がして、アルフォンスくんがわたしに手を振りながら走ってくるのが見えた。一瞬、二人がそれに気を取られた隙に、すばやく逃げ出して彼に駆け寄る。礼儀正しく腰を折る彼に合わせるフリをして、わたしも深々と頭を下げた。

「ちょっと、一緒に逃げてくれない?」

 こそこそと耳打ちする。アルフォンスくんが戸惑ったように視線を投げてくるが、その間にも大佐とエドワードくんは、二人とも似たような不気味な笑みを浮かべながらにじり寄ってきていた。


「ごめん!またね!」
「いいから、一緒に来て!」