ルクセンさんと映画を見ていたはずなのに、わたしはどうやら眠ってしまっていたらしい。ふわふわと宙に浮かぶような夢を見ていた気がする。

 遠くから心地よい音楽が忍び寄ってきて、徐々に意識に光が差し込んできたのに気が付いた。まぶたを開けると、先程まで雨が降っているシーンだったはずのテレビのなかでは、すでにエンドロールが流れている。まっくらな画面に白い文字がゆったりと泳いでいるみたいに見えた。
 ぼんやりとそれを眺めながら、すこし意識がはっきりしてくると、あたまの下にやわらかいものを感じた。身をよじれば、ルクセンさんのきれいな顔が目の前に現れた。驚いて思わず悲鳴が出そうになって、慌てて口もとを押さえた。わたしのからだに掛けられていたらしいブランケットがソファの下へ落ちていった。

 どうやら眠ってしまったわたしをひざまくらしてくれた後で、ルクセンさんは自分も同じように眠ってしまったらしかった。
 彼は座ったまま前かがみになっていて、そのせいで前髪が落ちて、いつもは隠れている額と右目があらわになっている。右目が閉じられていることだけが残念だ。
 いつもはほとんど金髪に見える髪が、テレビのひかりしかない薄暗いこの部屋のなかでは、色素のうすい茶髪なのだと分かった。
 起こさないようにそっと彼の前髪にふれてみる。見た目どおり、ふわりとしてさわり心地がいい。

「ほんと好きな顔なんだよねぇ…」

 端正な顔立ちに見惚れながら、ちいさくつぶやくと、ルクセンさんのまぶたがぱっと開かれ、翡翠色がのぞく。おだやかに細められたひとみに射貫かれ、ぽかんと開いていた口もとを引きむすんだが、時すでに遅しというやつらしい。
 ルクセンさんがさも愉快とも言いたげな唇を開いてたずねてくる。

「顔だけですか?」

 と。答えなんか知っているくせに、ルクセンさんは首をかしげて待っている。わたしはぐっと気づまりさを覚えながらも、観念してゆるゆると首を横に振った。
 それから、ルクセンさんの顔全体がほころびに埋もれるのをつぶさに見ながら、好きなんだよねぇ、と、今度は声にはせずに思う。

「自分もですよ」


(2016.04.19)


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