「今の見た?」
目を丸くしてを見ると、彼女もほとんど俺と同じように面食らった表情で、「うん、うん」と数度確かめるように頭を振った。自分の他にも目撃者がいたと分かり、いよいよ先ほど目撃した光景がまざまざと思い出される。横目で見やると、相変わらずノートで他からの視界を遮るようにして、恥ずかしげもなく(というのは多分タジマサマだけだと思うけど)見つめあう男女がある。そちらに背を向けるようにして、横向きで椅子に座り直した。頭をの方へ傾けると、彼女は机に身を乗り出し、俺の耳元に唇を寄せた。
「すごい、田島くんイケメンすぎる」
「えー、ああいうの好みなの?」
「いや、そういうんじゃないけど。さらっと、ああいうことできるのと、」
「・・・言えるのね」
「すごすぎる」
囁くようにさっきの「ちゅーしてやったぜー」の台詞を呟くと、埋もれるような笑いが耳元に落ちた。の息が当たって、顔がにやけそうになる。いかんいかん。微かな吐息までつぶさに感じ取れる距離に、胸の内でこっそりタジマサマを拝んだ。
「彼氏ほしい」
「彼女ほしい」
「水谷もててるじゃん。こないだの子どうしたの?」
「こないだのって、何の話よ」
「とぼけちゃってー」
さも愉快そうにが言う。見られていたのかというわずかな驚きとともに、彼女にとっては単なるクラスメイトでしかない俺が、どこの誰とも知らない女子に告白されていた場面など、遭遇したところで何ともないのは当たり前の話なのに、勝手に傷ついた自分に気が付いた。人の気も知らないで。気付かれないように少しだけ肩を竦めて、こっそり彼女を盗み見た。けれどもその顔が意外と面白がってるだけでもなさそうに思えたのは、多分俺の願望も大いに入っている。
「気になる?」
無邪気さを装って探るように言うと、耳元で息を飲む気配が感じられた。
「気になる」
一瞬戸惑っていたくせに、存外さっぱりした声音だった。その言葉に動揺したのは俺の方で、勢いよく彼女の方へ顔を向けると、衝突するみたいに視線がぶつかった。そこにはさっきと同じように目を丸くしたがいて、その瞳には確かに俺が映っている。今度は俺の方が息を飲む番だった。
「気になる?」
もう一度、確かめるように繰り返すと、が余裕たっぷりにふふっと息を漏らした後、「うん、すごく」と頷いてみせた。
(2016.03.04)
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