遠征の戦果を報告しようと、大将の部屋を訪ねる。襖の外から声を掛けたが返事がなく、そういえば最近働きすぎな彼女を思い出し、まさか中で倒れているのではないかと心配になった。一人で勝手に入るのは憚られたが、きょろきょろと辺りを見回したところで人影はなく、オレは致し方ないだろうと自分に言い訳をしながら襖に手をかけた。

緊張しながら中を覗くと、書き物机に突っ伏している大将が見えた。慌てて駆け寄ると、規則正しい寝息が聞こえてきて、ほっと息をつく。疲れてんだなぁと、申し訳ないやら微笑ましいやら、複雑な思いが込み上げた。

一応、大将の安否は確認できたし、これでこの部屋を出て行ってもよいのだが。先程入ってきた襖まで戻ったが、こんなに無防備な彼女を見られる貴重な機会、逃す手はないような気がして、開きっぱなしだった襖を閉じることにした。相変わらずぴくりとも動かない彼女の隣に戻り、腰を下ろした。

横向きで瞼を閉じる彼女のふくふくした頬が、枕にした腕で潰れていてなんだか間抜けだ。彼女にもう一歩身を寄せて、柔らかい黒髪を手で掬う。我ながらスムーズな動作でそれに口づけると、甘やかな香りが鼻腔を擽った。「お疲れさま」呟くように言って離れた。瞬間、ぱちりと彼女の瞼が開かれる。

「お、起きてたのかよ・・・」
「え、あ、うん」
「いつから」
「うーんと・・・厚くんが隣に座ったあたり」

ほとんど最初からじゃねえか!声にならない叫び声を上げて、オレは顔を伏せて正座した膝に両の拳を押し付けた。大将が目の前でおろおろしているのが分かったが、今はフォローできるほどの余裕もない。俺が隣に座ったのも、寝込みを襲った(髪に口づけただけだけどな!)のも全部知られてしまったというのがなんとも情けなくて顔を上げることができなかった。

「厚くん」

オレを呼ぶ声がする。

「厚くん、おかえりなさい。お疲れさま」

おずおずと顔を上げると、わずかに頬を赤く染めながら、とろけるような笑みを浮かべた大将がオレを見ていた。

「ただいま」

(2016.03.06)



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