「きみは俺の太陽だよ、ハニー」
「・・・あっそ」
「えっ」
私の乾いた返事に、カラ松の間抜けな声が続く。多分声だけでなく、顔も鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな顔をしているんだろうことが容易に想像がついて、私は声を立てて笑った。そういう素の声が好きだ。
今日は彼の騒がしい兄弟たちが皆出払っているということで、松野家に遊びに来ていた。松野家ではいつもだらだらと何をするでもなく過ごしていて、今日は彼の兄弟のものらしい漫画を借りて、畳に寝転んで読みふけっていた。膝を曲げて、ぱたぱた前後に動かしながら、ここに来るたび読ませてもらっている漫画の新刊に夢中になっていると、その足の向こう側からなんだか変な空気が漂ってきていた。カラ松がうろうろそわそわと行ったり来たりするので、気が散って面倒くさいなあと思っていたのだが、突っ込むのも億劫でしばらく放っておこうと思っていたのだ。
私は今、カラ松と付き合っていて(とはいえ、断じて彼の言う「カラ松ガールズ」なるとち狂った存在ではない)、彼とは元々は単なるご近所さんだった。当然彼の兄弟たちとも知り合いなのだが、付き合っていることは誰にも言っていない。なんだか気恥ずかしいし、なにより「カラ松と?!」と困惑される(もっと正確に言えばバカにされる・・・)のが目に見えているからだ。実のところ、先に好きになったのは私の方で、彼の果てしなく広く優しい心に惹かれたのだけど、彼が自分の魅力をはき違えているせいで、付き合っている私まで色眼鏡で見られるのはなんとか避けたいと思っている。
まったく、いつからカラ松はこんなに恰好つけるようになったのだろうか。何かに悪い影響を受けたか・・・と言うと、彼の兄弟は個性的でみんな色んな意味で「変」だけど、こういうベクトルで振り切れているのは彼だけだ。何度か窘めてみたけれど、不治の病にでもかかっているのだと、最近は諦めた。それに、彼の良いところは私だけが知っていればいいとも思っている。なんだかんだ私はカラ松にベタ惚れだなあ。
「きみは俺の、」
「あ、それもういいから」
「えっ」
私がうんざりという風に言葉を投げると、また素のカラ松が呆然とした声を出した。そうそう、コレだよ、コレ。
「今日さ、さっきのみたいなの禁止ね」
「えっ」
「普通に喋って、普通に」
「な、なに言ってるんだ?俺は普通じゃないか、ハニー」
「・・・次そういうこと言ったら帰る」
「えっ」
なんかちょっと楽しくなってきた。カラ松が今どんな顔をしているか気になって、漫画を床に置いて首だけ捻って彼の方を見た。すると予想外にも、彼は神妙に正座をしていた。
「なんで正座?」
真面目くさった感じで折り目正しく背筋をぴんと伸ばしつつ、首だけ前に倒しているカラ松に、おなかの底から笑いが込み上げた。私も彼の前に同じように正座して、俯く彼の顔を下から覗き込んでみる。
「・・・帰らないで」
覗き込む私の目から逃げるようにそっぽを向いて、カラ松が口のなかでもごもごと躊躇うようにそう言った。まじまじと見つめていると、みるみる頬が赤くなっていく。面白くなって、私はそのまま正座する彼の膝の上に頭を下した。そっと壊さないように彼のサングラスに手を伸ばす。カラ松は慌てたように私の動きを止めようとしたけれど、「じっとしてて」と言うと、諦めたように手を床に落とした。サングラスを外すと、彼はぎゅっと目を閉じていて、頭から伝わる彼の温度がさらに上がったような気がした。乙女かよ、と突っ込みたくなったが、あまりにそのさまが可愛らしくて、ふふっと声が漏れた。
「カラ松?」
「・・・」
「カーラーまーつー」
「・・・う」
「こっち見て」
びくりとカラ松の肩が揺れる。催促の代わりに彼の膝の上でぐりぐりと頭を動かすと、観念したように彼がおずおずと瞼を開けた。きっと今彼の視界は私で埋め尽くされている。
「好き?」
にんまり笑いながら聞くと、カラ松は耳まで真っ赤に染めた。頬に手を伸ばすと、熱でも出してるみたいに熱い。
「好き、です」
言って、いたたまれなくなったのか、カラ松が私の方へ崩れ落ちてきた。なにがしか言葉にならない呻き声を上げている。私は彼のそのりんごみたいな頬に口づけて、「よろしい」と言った。カラ松が大仰にため息をついて、彼の息で髪が揺れてくすぐったかった。
そうそうコレだよ、コレ。
カラ松兄さんまじ乙女(2016.02.27)
Close