電話の相手にはまたかけ直してもらおう。わたしは上げかけていた受話器を元に戻し、小走りで玄関へ向かった。チャイムは鳴り終わっていたが、ドアの向こう側には人の気配が感じられた。

「よ」
「ハボックか。どうしたの?」

 灰色の煙がハボックの口からもわもわと出てきて、まるでさっきからずっといたみたいに、2、3本、吸い殻が床に落ちていた。その理由を図りかねて、吸い殻を指差すと、彼はばつの悪そうな顔をしたあと、捨てといて、とふにゃっと笑って見せた。
 3月に入ったというのに開けたドアから入ってくる風はまだ冷たい。ハボックの金髪が揺れて、彼は寒いのかひとつ小さくくしゃみをした。擦る鼻の頭が少し赤い。

「どうしたの?」
「あー…」
「何よ」

 曖昧に言葉を濁して、ハボックは頭をかいた。彼の肩の向こうに見える暗闇が、いっそう深く黒く光って見えた。

「入る?」

 ドアノブを握りしめたままの手が風にさらされて冷たかった。見るからにしばらく外にいたらしいハボックは、もっと寒いんだろうと思ったら、自然と声が出ていた。気遣ったつもりだったのに、ハボックはあきれ顔で灰色のため息をついた。

「何それ」
「別に。すっげえばかだなと」
「…用がないなら帰りたまえよ、少尉くん」
「ちょっ!閉めんなよ!」
「じゃあ、何?」
「あー…ほら、アレだ、アレ。今大佐と中佐と中尉と飲んでて。お前呼んで来いってうるさいんだよ、あの人ら」
「ふぅん」
「で、俺がお前を呼びにきたわけ」
「へぇ」

 視線をあさっての方向へ飛ばしながら言うハボックに、目を細めながらにやにやしてしまう。慌ててドアを押さえたときに、彼の手に握られているものに気づいてしまったのだ。彼は嫌そうな顔をしたが、それでもわたしの気づいたことには触れずに、行くのか行かないのかと尋ねてきた。

「何かほかに用ないの?」
「な、なんだよ」
「んー。別にその手に握られてる袋はなんなのかなぁとか聞いてないけど」
「…直球で聞いてんじゃねえか」
「くれるの?」
「へーへー」

 ほらよ、と突き出された袋を受け取って、さっそく中を開けようとすると、大きな手がそれを制した。わたしから袋を奪ってから乱暴に廊下へ放り投げると、「行くぞ」とわたしを急かす。わたしは仕方なく玄関にかけていたコートを羽織り、シューズケースの上の鍵を手に取って外へ出た。

、まさかお前金持ってかねー気じゃねえだろうな」
「え?…少尉がおごってくれるんですか?うれしー!」
「言ってねえっつの!」

 ハボックの言葉は聞こえないフリをして、ドアに鍵がかかったかしっかり確認したあと、わたしはさっさと歩き出した。にっこり笑って振り向いて、「お店どこ?」と聞けば、彼はまた灰色のため息をついたあと、「ご案内させていただきますよ、お嬢さん」と、わたしの手をとって歩き出した。


END.09 | 闇夜のエスコート(ハボック)


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